日本のフランチャイズ取引の実情から、韓国フランチャイズ法規制をする

日本のフランチャイズの実情から韓国の法規制を参照する

弁護士 中 村 昌 典

 1 はじめに
   日本におけるフランチャイズ取引の実情と法規制の必要性は、2021年に日本弁護士連合会が提出した「フランチャイズ取引の適正化に関する法律(フランチャイズ取引適正化法)の制定を求める意見書」(以下「意見書」という。)が指摘する通りであるが、今回の韓国視察により、法規制の必要性を一層強く確信した。本レジュメは、日本におけるフランチャイズ取引の実情から、韓国の法規制を参照し、日本における法規制のあり方について示唆を得ようと試みるものであるが、網羅的ではない上に、あくまで筆者の個人的意見に止まることに留意されたい。
 2 勧誘時における問題
(1)日本の実情
   フランチャイズ本部が加盟者を増やそうとして、勧誘時に、およそ既存店の実情を反映していないような高額な見込売上や利益を提示したり、欺瞞的顧客誘引に該当するような勧誘は未だに後を絶たない。フランチャイズチェーンとしての知名度の低さを、加盟を検討している者に対して訴求力の強い(強すぎるが実態の伴わない)ワードを掲げて加盟させようとしている事案もいくつも確認される。一例を挙げると、2020年に自己破産した整体のフランチャイズであったA社は「全店黒字」をうたい文句として急激に加盟者を増やしたが、実際には半数以上の店舗が赤字であった。フランチャイズ本部は、実情を認識しながら、「全店黒字」と言わないと加盟してもらえないのでこれを使って勧誘し続けたのである。既存店100%成功しているのだから素晴らしい事業であると誤認して加盟した加盟者は救われない。
(2)韓国法規制の参照
 ア 情報公開書の提供義務
   韓国の加盟事業法は、フランチャイズ本部に対して、情報公開書の登録を義務づけており、KFTCや情報登録機関が公開している。フランチャイズ本部と加盟希望者との情報格差を是正し、詐欺的フランチャイズ本部の参入を防止する目的という。登録にあたっては、財務諸表に関しては記載内容の裏付け資料の添付を求めている。収益情報も記載事項とされており、年単位の地域ごとの加盟店の平均売上高の記載が求められる。収益情報については加盟希望者は根拠となる資料の閲覧できるとしている。
 イ 加盟金預値(預託)制度
   韓国のフランチャイズ本部は、加盟者から加盟金を直接受け取ってはならず、一定の時期までに第三者に預託しなければならないとされる。違反した場合には是正措置命令や課徴金の対象となる。
 ウ 虚偽・誇張された情報提供の禁止
   フランチャイズ本部は、加盟希望者に対して情報提供をする際に、虚偽もしくは誇張された情報を提供してはならず、重要事項の不記載も禁止される。これに違反した場合には、加盟者希望者は加盟契約締結前に、加盟した者はこれが契約の締結に重大な影響を与えたと認められる場合に契約日から2か月以内であれば加盟金の返還を請求できる。
(3)若干の考察
   フランチャイズ取引の勧誘時における問題(情報提供義務違反)はフランチャイズ本部と加盟希望者との情報格差から生じうるものであるから、これを是正し、フランチャイズ本部側の情報提供によって不都合が生じた場合には加盟者は速やかに離脱する法規制が必要である(意見書2項(1)ないし(3)、(6))。フランチャイズ本部が「今月末までに契約すれば加盟金が半額です。」と契約を急がせる例もよく見られる。加盟者側も、そうした勧誘に応じることは、加盟するかどうかを相談・検討・熟慮する機会と時間を奪われている(押買されている)ことを十分認識すべきである。
 3 不公正な契約
(1)日本の実情
   日本におけるフランチャイズ本部と加盟者間の問題は突き詰めると契約書(約款)の問題である。フランチャイズ本部は、加盟者のあらゆる権利を制約する、周到に準備された重厚な契約書(約款)を用意しており、加盟者はこれに署名・押印するだけであり、個別の契約条項について交渉の余地は原則としてない。法律家ではない一般人が、わずか一度の読み合わせで、当該契約書の「恐ろしさ」に気づくことはまずない(気づいたら契約していない)。
(2)韓国法規制の参照
 ア 約款規制法
   韓国は、約款法が制定されており、事業者間の契約にも適用がある。約款使用者の明示義務、交付義務、説明義務があるとし、不公正な約款に該当する場合には無効になるとする。
 イ 契約書記載事項に関する規制
   加盟事業法は、フランチャイズ本部が加盟契約書に義務的に記載すべき事項を定めている。
 ウ 標準契約書(モデル契約書)
   加盟事業法は、KFTCが標準契約書(モデル契約書)を作成及び使用を勧奨することができるとされ、大半のフランチャイズ本部はこれを使用している。市場の多様なニーズへの対応のため、2023年改正で、KFTCフランチャイズ本部と加盟店事業者に対して、モデル契約書の制定や改正を要請することができる、とされた。
 エ 不当な商圏侵害の禁止
   加盟事業法は、加盟者の営業地域を設定し、契約書に記載しなければならないとする。最初に定めた営業地域を変更する場合は、加盟者の合意が必要とされる。フランチャイズ本部は、契約期間中、正当な事由なくして、加盟者と同一の業種の直営店または加盟店を設置してはならない。
(3)若干の考察
   日本におけるフランチャイズ取引の適正化は、フランチャイズ契約の適正化から始まる。契約内容を平等かつ適正にするように法規制が必要である(意見書2項(4))。加盟者は人生を賭けてフランチャイズに加盟する。一種の投資でもある。うまく行ったときは継続して営業を続けたいし、うまく行かなかった時は、早期に撤退する自由は確保されるべきである。
4 紛争解決
(1)日本の実情
   フランチャイズをめぐる紛争は少なくないし、筆者は20何年、加盟者の相談に応じているが、フランチャイズ業界が浄化されたとか、詐欺的本部が駆逐された、という印象は全くない。弁護士への依頼には至らないが、加盟者の泣き寝入りを含めて潜在的な紛争は多数あるのではないかと想定される。なお、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会は令和3年5月に、法務大臣から認証紛争解決事業者(ADR)の認定を受けているが、法務省がとりまとめた「認証紛争事業者の取扱件数」という集計
   https://www.adr.go.jp/wp/wp-content/uploads/kensu.pdfをみると、同法人の紛争受理件数は、令和3年、4年、5年、いずれも0件である。
(2)韓国の実情について
 ア 加盟取引紛争調整制度
   加盟事業法は、韓国公正取引調停院を設置し、地方自治体に加盟事業取引紛争調停協議会を設置し、紛争調停制度を運営している。韓国公正取引調停院は、加盟事業取引だけでなく、公正取引、下請取引など6つの分野について調停を実施しており、全体で年間3000件、加盟事業取引については年間約600件を処理しているという。
 イ 全国加盟店主協議会
   加盟事業法は加盟者の団結権を認めており、2016年、韓国全国の加盟者の横断的組織として全国加盟店主協議会が設立し、2018年社団法人全国加盟店主協議会を設立した。同協議会は、フランチャイズ本部と交渉し、協約を締結して、加盟店共通の問題の解決を図っている。
(3)若干の考察
   日本においては、フランチャイズ本部を恐れて、加盟者が団体を立ち上げたり、団体に参加するということが難しい。団結権及び団体交渉権の明文化が必要である(意見書2項(5))。加盟者にとって使いやすい紛争解決制度の創設も必要であろう(意見書2項(8))。
   
5 感想
    韓国のフランチャイズ法制度の調査は2013年にひき続いて2回目であるが、法改正も頻繁に行われ、実務的にも進展していることを感じた。加盟希望者が安全・安心して参入できる法制度を早期に整備しないと、業界の健全な発展は望めないと思われる。 以上

2025年06月09日